発端
シャッターアートをやろうと思ったきっかけとの出会いは2015年に遡る。当時は空き家に関するブログをほぼ毎日書いていた時期だ。首都圏を中心とする空き家活用のリーディングケースを調べたり、空き家を巡るニュースや文献の考察を行ないブログにまとめていた。そんな折、以前から私のブログで取り上げていた株式会社まちづクリエイティブ(以下、まちづ)の寺井元一さんから「プロボノライターとして参画しないか?」と声をかけていただいた。
改装可能・原状回復不要な賃貸物件を数多く取り扱いアーティストやクリエイターを呼び込み、物件の価値のみならずエリアの価値をも高めていくというまちづの事業手法はかねてから大注目していたこともあり二つ返事で承諾した。このようにしてまちづの代表的なまちづくりプロジェクトであるMAD Cityのウェブメディアに携わることになったのである。代表的な記事は以下のとおりだ。
▼商店街の空き店舗が生まれる背景をまとめた記事。
▼空き家活用のリーディングケースを紹介した記事。
▼空き家の何が問題なのかをまとめた記事。
松戸駅前を歩いてみると立体道路の壁や公園の公衆トイレの壁、賃貸物件の壁*1などに絵が描かれているのがわかる。まちという公共空間で限りなく自由な表現活動がなされ、それが具体的な成果となってまちの至る所に点在しているのである。
こういった「まちアート」のおもしろさや価値を目にして耳にして触れた経験と、2020年3月から開始したイノイチサードプレイスプロジェクトの活動とを掛け合わせて着想したのがシャッターアートだった。
▼MAD Cityでの経験がシャッターアートのヒントにつながったことはこちらの記事でも書いた。
始動
2020年7月、シャッターに絵を描くことについて物件オーナーの了解を取りアーティストをSNSやnote、口コミなどを使って募集した。どのようなアーティストに描いてもらうかの判断ポイントは3つある。
- 実績が十分ある方よりも表現の場やチャンスを必要としている「若手*2」アーティスト
- 「ソーシャルグッド」や「持続可能性」といった14個のキーワードを出来る限り絵に盛り込む
- 観る人の心を(良い意味で)傷つける*3絵を
▼シャッターアートのアーティスト募集の記事。
これまで描かれてきた絵のポートフォリオ、これからシャッターに描こうと考えている絵の下絵を応募してくれたアーティストに見せてもらい、それを物件オーナーとも共有した。実際にアーティストに現地に来てもらい物件オーナー含めてリアルなコミュニケーションをとった。シャッターの掃除もみんなでやった。塗料や筆など必要な消耗品をホームセンターで購入した。そういった諸々の調整や準備を済ませ、三鷹台南口エリアの5箇所のシャッターに5組のアーティストが絵を描ける環境を整えたのである。
▼シャッターアートの事前準備についてまとめた記事。
▼ちなみに三鷹・武蔵野エリアには魅力的なシャッターアートが点在している。
省察
シャッターを提供する物件オーナーとシャッターに絵を描くアーティスト、その両者との間でお互いの意見をすり合わせるなどといったコーディネーターとしての役割を私が担った。物件オーナーには「描いて欲しい絵」がありアーティストには「描きたい絵」がある。両者にとってなるべくストレスが少なくなるように気を配ったつもりだ。
大量にペンキが余ってしまったためシャッターの面積に対して適正な量の塗料を計画的に購入すべきであった。結局は民間の不用品回収サービスを利用したため費用がかなりかかってしまった。
諸々の調整や準備などコーディネーターの仕事は多岐に渡る。途中で「うちのシャッターに絵を描いてほしい」とおっしゃる物件オーナーや「(募集終了後だけれども)シャッターに絵を描きたい」とおっしゃるアーティストが現れたりしたが私1人では5箇所のシャッター、5組のアーティストのコーディネートが限界であった。
▼コーディネーターの募集をしたりもした。
▼物件オーナーの募集をしたりもした。
かかった費用は塗料や筆などの消耗品と学生アーティストの交通費で合計約20万円だ。1箇所あたり約4万円といったところである。余った塗料の量を考えると、効率的にやれば2〜3万円で済んだはずだ。しかし今回は全てが初めてのことである。勉強代として必要な投資だったと考えている。
▼コーディネーターの悪戦苦闘を振り返る記事。
反響
2021.9.2(木)に開催された三鷹市議会の定例会の一般質問において、シャッターアートが議題として取り上げられた。「シャッターアートを支援してはどうか?」という市議の問いかけに対し市側は「周辺景観との調和」や「近隣住民の理解」といった課題を挙げ、支援のあり方については慎重に検討していきたい、という回答であった。
この慎重な姿勢は公費を原資とする役所という特質からして至極真っ当である。塗料や筆などの消耗品費、アーティストの交通費、コーディネーターの人件費などに対し公費がいくばくか投入されるとするならば、公費が適正に使われるのどうか徹底的に吟味されることになるだろう。その結果、誰にとっても穏当で無難な絵が描かれることを容易に想像することができる。
つまりシャッターアートは役所の支援が馴染まない、というのが私の考えだ。シャッターアートをやるのならばシャッターを提供する物件オーナー、絵を描くアーティスト、両者を取り持つコーディネーターの三者がそれぞれリソース(資金、技術、労力など)を出し合い、あくまでも民間の立場から取り組むのが効果的だ。
▼三鷹市議会でシャッターアートが取り上げられたことについて書いた記事。
▼5つのシャッターアートを巡り動画にまとめた。
▼三鷹台シャッターアートを視察したい方は下のリンク先の記事をご確認ください