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サードプレイスは主観的な場所

サードプレイスは主観的な場所

サードプレイスは主観的な場所

インフォーマルとパブリック

サードプレイスについて面白い論文集を見つけました。サードプレイスについて真正面から取り上げた論文集は少ないためとても興味深く読みました。

日本労働研究雑誌 2021年7月号(No.732)

サードプレイスという概念をつくり世に広めたのはアメリカの都市社会学者のオルデンバーグです。20世紀後半のアメリカにおけるマイカーの普及と郊外への市街地の拡大、それに伴う都心部の空洞化によりインフォーマルでパブリックな居場所が少なくなってきたことを問題と捉え、サードプレイスの重要性を訴えたのでした。オルデンバーグ自身はサードプレイスを「インフォーマルな公共生活の中核的環境」と定義しています。

サードプレイスというのは、家庭と仕事の領域を超えた個々人の、定期的で自発的でインフォーマルな、お楽しみの集いのために場を提供する、さまざまな公共の場所の総称である。
サードプレイス〜コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」P.59

ここで大事なポイントは「インフォーマル(他者に強制されない、個人の自由意志にもとづく行動を意味する)」と「パブリック(個人的な活動ではなく、他者とのかかわりの中で行う活動を意味する)です。インフォーマルだけれどもプライベートな家庭、パブリックだけれどもフォーマルな学校や職場、その双方とも違う第3の場所の存在が20世紀後半のアメリカの都市問題を解決へと導くとオルデンバーグは提唱したのでした。

「インフォーマル&パブリック空間」であるサードプレイスは、強制されない自由を保ちつつ、他者との緩やかで心地よい関係を構築することができる空間を指す。従って、「家庭でも、職場でもない、第3の場所」とは、次のように解釈されることになる。すなわち、都市に暮らす人々は、職場における拘束感から解放され、家庭ではもつことのできない他者とのかかわりを楽しむ空間の心地よさを体験することで、 サードプレイスに惹きつけられ、都市生活におけるインフォーマルでパブリックな営み(informal public life)の重要性に感覚的に気づいていく。その気づきこそが、1980年代アメリカの都市問題に対する解決策となるというのがオルデンバーグ(2013)の主張である。
長岡健、橋本諭(2021)「越境学習、NPO、そして、サードプレイス― 学習空間としてのサードプレイスに関する状況論的考察」日本労働研究雑誌 2021年7月号(No.732)p.32

長岡健、橋本諭(2021)「越境学習、NPO、そして、サードプレイス― 学習空間としてのサードプレイスに関する状況論的考察」日本労働研究雑誌 2021年7月号(No.732)p.32

出典:長岡健、橋本諭(2021)「越境学習、NPO、そして、サードプレイス― 学習空間としてのサードプレイスに関する状況論的考察」日本労働研究雑誌 2021年7月号(No.732)p.32

現代の社会の動きを捉える

とは言ってもオルデンバーグによりサードプレイスの重要性が提唱されたのは今から30年以上も前のことです。この間に日本では夫婦共働き世帯が増えインターネットが普及するなど社会環境は大きく変化しました。サードプレイスの重要性を訴える場合、サードプレイスという概念のエッセンス*1は受け継ぎつつも、多様性を重視する価値観や情報技術の進展といった現代の社会の動きをしっかりと捉えていく必要があります。

たとえばモラスキー(2013) は、Oldenburgがあまりにも古き良き米国の小規模な町を称揚し、郷愁を感じすぎていると批判している。モラスキーは、Oldenburgの考える古き良き町は、人々の多様性に欠け、女性も専業主婦であることが前提となっている可能性があるのではないかとする。さらにインターネットなどの情報通信技術の発展により、家庭と職場が融合され、商業施設ではWi-Fiで整備されるなど、Oldenburgが予想もしていなかったような変化が生じたとされる(Slater  and  Koo  2010)。
石山恒貴(2021)「サードプレイス概念の拡張の検討―サービス供給主体としてのサードプレイスの可能性と課題」日本労働研究雑誌 2021年7月号(No.732)p.6

サードプレイスは主観的な場所

誰にとっても居心地の良いサードプレイスは限りなくあり得ません。AさんにとってのサードプレイスとBさんにとってのサードプレイスは、同じかもしれないし違うかもしれないからです。つまりサードプレイスは主観的な場所なのです。また、サードプレイスは一つである必要もありません。自分のサードプレイスがまちの至る所にあればその分、暮らしの充実や人生の満足を向上させてくれます。そして、個人にとってのサードプレイスがたくさん存在するまちはとても魅力的です。

inoichibooks.hatenablog.com

▼書籍「サードプレイス」についてまとめた記事。

akiya123.hatenablog.com

▼書籍「サードプレイス」についてまとめた動画

www.youtube.com

*1:オルデンバーグの言うサードプレイスの特徴は8つ。①中立の領域②人を平等にする③会話が主な活動④利用しやすさと便宜⑤常連⑥目立たない存在⑦その雰囲気には遊び心がある⑧もう一つのわが家。